アフロダンスは宗教ともつながっている? ― 儀式、神話、そしてリズムの世界
ブラジルのアフロダンスを深く知っていくと、そこには宗教的な要素が色濃く影を落としていることに気づかされます。特に「カンドンブレ」や「ウンバンダ」といったアフロ・ブラジル宗教とアフロダンスは、切っても切り離せない関係にあるのです。
カンドンブレとウンバンダ ― ダンスと信仰の融合
アフリカ大陸の文化を源流に持つカンドンブレは、自然の力を神格化した「オリシャ」と呼ばれる神々を中心に信仰されています。ブラジルへ連れてこられたアフリカの人々は、抑圧された環境の中でこの信仰を密かに守り続けてきました。
一方、ウンバンダはブラジルで生まれた宗教で、カンドンブレの要素に加えてキリスト教やスピリティズムの影響も受けています。ここでもオリシャが崇拝されますが、それに加えて祖霊(エンティダーデ)とのつながりも重視されています。信者たちは白い服をまとい、それぞれの霊的存在を象徴する色のビーズネックレスを身に着けます。
そして、これらの宗教儀式の中では、ダンスが重要な役割を果たします。単なる動きではなく、神々の「化身」として踊ることで、神聖な存在と一体になるという信仰がそこにあるのです。
アフロダンスに影響を与えた4人のオリシャ
では、実際にどんな神々がダンスに影響を与えているのでしょうか? ここでは、特にアフロダンスに深く関係する4つのオリシャをご紹介します。
1. オシュン(OXUM)― 愛と美の女神
淡水や川、美、豊穣、愛といった女性的な要素を象徴するオシュン。彼女のダンスはとても優雅で、片手に持った鏡を見つめるような仕草が特徴です。これは「自分を大切にする心」や「内なる美しさ」とも重なり、多くの人に共感される動きです。
2. オショッシ(OXÓSSI)― 森の守り人
狩猟の神オショッシは、豊穣と森林を司る存在。彼のダンスは弓矢を放つような動作が印象的で、自然との共生や目標に向かう力強さを表現しています。ブラジル北東部ではとくに人気のあるオリシャのひとりです。
3. オシャラ(OXALÁ)― 世界の創造者
創造の神であるオシャラは、若々しい戦士の姿(オシャギアン)と、年老いた賢者(オシャルファン)の両方の面を持っています。若い姿では剣と盾、年配の姿では金属の杖「アパショロ」が象徴とされ、それぞれ異なるダンスの動きとなって表れます。
4. エシュ(EXÚ)― 世界をつなぐ使者
エシュは、物質世界と霊的世界をつなぐ役割を担う神です。コミュニケーション、道、商業、変化などを司り、儀式では最初に祈りと供物を捧げる対象となります。植民地時代にはキリスト教的な視点から「悪魔」と誤って結びつけられてしまいましたが、これは大きな誤解です。エシュは変化と可能性の神であり、決して邪悪な存在ではありません。
宗教=怖い?という誤解
残念ながら、アフロ・ブラジル宗教は長い間「黒魔術」「呪術」「恐ろしいもの」といったイメージを持たれてきました。しかし、実際には自然を敬い、先祖とつながり、心身の調和を大切にする深い精神性を持った信仰です。
現代ブラジルでは、こうした宗教とダンスの結びつきを文化遺産として見直す動きも進んでおり、国内外のダンサーやアーティストたちがアフロダンスを通してその魅力を再発見しています。