ブラジルでは、植民地時代にアフリカから奴隷として連れてこられた人々が、自らの伝統と精神性を守るために踊りを続けてきたことをご存じでしょうか? 彼らのダンスは、ただの身体表現ではなく、言葉では伝えきれない想いを託した「生きた記憶」として、今も脈々と受け継がれています。
「アフロダンス」と一言で言っても、その背景には多様なストーリーが詰まっています。芸術的であり、宗教的であり、政治的でもあるこのダンス。今回は、そんなブラジルのアフロダンスパート①を紹介します。
1) 少なくとも3世紀の歴史がある
ブラジルのアフロダンスのルーツは、アフリカ大陸の部族社会にまでさかのぼります。ヨルバ、バントゥー、コンゴなどの民族が持っていた豊かなダンス文化が、奴隷貿易を通じてブラジルに持ち込まれました。
それだけでなく、ブラジルの先住民族の影響も加わることで、独特のリズムと身体の動きが生まれました。20世紀の都市化・工業化に伴って、多くの人々が地方から都市へと移動し、アフロダンスはカーニバル、宗教儀式、さらにはストリートパフォーマンスの中にも姿を現すようになります。
アフロダンスは、ただの歴史的な遺物ではありません。今も生きている、進化し続ける表現なのです。
2) ダンスは「抵抗」の手段でもある
アフロダンスは、抑圧に対する「無言の抵抗」としても機能してきました。植民地時代、多くの宗教や文化活動が禁止されていた中で、人々はダンスに自らの信仰や記憶を託し、静かにアイデンティティを守ってきたのです。
特に「カンドンブレ」や「ウンバンダ」といったアフロ・ブラジル系宗教の儀式では、神々とつながるための神聖なダンスが行われます。これらの動きは、単なる身体の動作ではなく、スピリチュアルな行為であり、魂の再確認でもあります。
3) 地域によってスタイルが異なる
アフロダンスと一口に言っても、実は地域によって大きく異なるスタイルが存在します。
例えば、バイーア州ではオリシャ信仰に基づく儀式的なダンスが根強く残っており、サルヴァドールのカーニバルではアフロ系グループによるパフォーマンスが非常に印象的です。一方、リオデジャネイロではサンバの中にもアフロのリズムや動きが色濃く見られ、都市型に進化したスタイルが主流です。
このように、アフロダンスは「どこで踊られるか」によってもその意味合いや動きが変わってきます。それぞれの地域の歴史や民族構成が、ダンスの表現にも反映されているのです。
4) 現代のアートや教育にも影響を与えている
近年では、アフロダンスがアートや教育の現場でも注目を集めています。ダンサーやアーティストたちは、アフロダンスの動きにインスピレーションを受けて新しい作品を創り出したり、学校や地域のワークショップで子どもたちにこの文化の魅力を伝えたりしています。
これは単なる「文化保存」ではありません。アフロダンスは、今の時代の中でも新たな意味を持って受け継がれているのです。身体を通じて自分を知り、他者とつながる――そんな可能性がこのダンスには秘められています。